ブドウ畑の空に乾杯 | |||||||||||||
仕込みの終盤、私をワインと出会わせてくれた恩師がくも膜下出血で倒れた. 「驚かないで下さい。状態はかなり悪く危篤です。入院先は...」 送られてきたメールを読んでも信じられなかった.もってあと2-3日と医師が言ったのだそうだ. あと2日ですべての赤ワインの搾汁を済ませ、長らく続いた仕込みの期間がようやく終わるという時だった. 「ワインを放ったらかしにして会いに行っても先生は喜ばないかもしれない。 しっかり仕事してから一緒にお見舞いに行こう。もしかして先生、待っていてくれるかもしれないから」 連絡をくれた人とそう話し合い、ワイナリーの勤務を終えて3日後の土曜日にお見舞いへ行く事に決めた. 決断は正しいとは言えなかった.それからは仕事どころではなく、 ずっと張り詰めた何かが頭の中を支配しており、視界は狭く歩は進まず、 うっかり怪我でもしそうな心持ちがしたまま1日が過ぎた. 前述のメール以降何の連絡もこないことが救いであり不安でもあった. 夜中に浅い眠りの夢の中で、倒れたはずの先生から電話がかかってきてフランス語で挨拶をしたりした. 全ては本当に夢で、何事もなかったようにまた起きてくるのではないかと祈った. 2日目の朝. 落ち着かなかった. 一体何を思ってワインを造ったらよいというのだろう? 病院へ駆けつけて、魔法の秘薬のようにワインの瓶を取り出し、先生に飲ませたら目を覚ましてくれないだろうか... だが私が造っているのはそんな魔法の液体などではなかった. その日ずっと気にかけていた携帯が作業着のポケットの中で震え、知らせが届いた. 先生は亡くなってしまったのだ. しゃがみ込んで息を止めたが、やがて立ち上がって泣きながらカベルネ・ソーヴィニョンを搾った. こうして2012年の仕込みが終わった. #
by saitomy
| 2012-11-02 07:19
| ワイン・ブドウ 日本編
いつにも増して日記が飛びとびだったけれど、収穫はやっとすべて終了. ほっと一息なのかな...生活は少し落ち着いてきたように感じる. 今年も造っている最中に大切な人たちの顔が何度も頭に浮かんだ. 顔の見えない誰かに対してワインを造ることは一度もない. あの人が美味しいと笑ってくれるように、あの子が大人になったら飲めるように、そんなイメージが多い. 写真は今年最後の収穫をしたワイナリーの、世にも美しいカベルネ. 休みの日は勤務先以外のワイナリーで畑仕事させてもらうこともある. 美味しい物を作ろうとしている以上、美味しい物を作っている人の近くにいて学びたいと思うのは当然のことだろう. #
by saitomy
| 2012-10-28 03:00
| ワイン・ブドウ 日本編
醸造所の隅で小さく圧搾作業. 扱う品種が多すぎてそれぞれの量は信じられないほど少ない、それを単一品種で仕込もうとするから 時間と経費ばかりかかって儲からない、という事態を避けたい...はずじゃないのか、普通に考えれば. それをわざわざやらせてもらっている今の職場に感謝したい. 絞り込むことの大切さよ. この躰は一つしかないのだ.ワインを造れる回数も限りある. 醸造機器とワインの大きさも合わず品質も低いまま、甘んじて仕方ないさと言い訳ばかりしている暇など 本当はないはずなのだ. 新しいワイナリーを作ろうとしている人は本気で考えるべきだ. 生き残ってワインを造り続け、後の世代に繋ぐ基盤を整えるために何がどれくらい必要なのか. 実験的なことは長年しているのだし、つくりたいものつくれるものも、いい加減分かってきているだろう. #
by saitomy
| 2012-09-30 03:00
| ワイン・ブドウ 日本編
畑の外にイノシシの赤ちゃんがすやすやと眠っている. 最初死んでいるのかと思ったけれど 寝息を立てているのでした. ブドウの搾りかすのベッドは気持ちいいみたいだね. 時折耳をパシっと動かしてハエを追い払う仕草が小憎たらしい. すぐに大きくなって畑を荒らすとわかっていても可愛いもんだね. 猟友会の人に罠をしかけてもらいますよ. #
by saitomy
| 2012-09-27 03:00
| ワイン・ブドウ 日本編
時は流れ、明日からいよいよワインの仕込みが始まる. 毎年のことだが独特の高揚感と緊張はなかなかよいものだ. 日記を書く回数は減ったが、いろいろなことを考えたし勉強もした. 準備はよい感じに整っている. 愉しい仕込みの数ヶ月になりそうだ! 写真で飲んでいるのはワインじゃなくてビールなんだけど、久々のセルフポートレイト. #
by saitomy
| 2012-08-16 03:00
| ワイン・ブドウ 日本編
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